THE JETZEJOHNSON at 代官山UNIT

"GAME OVER, ARE YOU CONTINUE?" とフロアに問いかけるはずのところで、"We Are JETZEJOHNSON!" と咆哮した、小柄なひとのことを想う。ザ・ジェッジジョンソン、結成以来長らく続いたバンド体制に終わりを告げるライヴ終盤のこと。

「精緻に積み上げられたエレクトロのきらめきと、下北沢という街に鍛えられた重みのあるロックバンドとしての姿、その両方を持ち合わせたのがジェッジジョンソンである」…何度でも繰り返すけれど、わたしが思うにジェッジの一番の魅力はここだ。だからなかたんと壮一さんが抜けて藤戸氏のソロプロジェクトになる、という声明を聞いた瞬間は、からだが半分になったような気持ちさえした。彼らがステージに立った時の、クールさと熱情が混ざり合った絶妙なる空気がもう味わえないだって?勘弁してくれ。

告知があってからというもの「はやくSOLID BREAKS UPPERの楽曲をライヴで見たい」という思いと、「これが終わったら次はどうなってしまうのだろう」という杞憂がないまぜになった日々をずっと過ごした。そしてこの日、いつもどおりに駆け抜ける100分が過ぎて、いつもどおりに「またっ!」と言ってステージを去っていった藤戸氏を見たら、なんだか逆に安心した。そっか、そういうことか。
入りのSEは「CONTINUE?」。新作リリース以降も変わらぬ定番。自然と沸き起こるハンドクラップをかき消すように、シャープなギターが鳴りわたる「the i of TODAY」から、あかるくて伸びやかな楽曲が並ぶ。万全の調子ではなさそうだけど、藤戸氏の声ががっちりとしたバンドアンサンブルの上を軽やかに駆け抜けていく。ああ、彼ら4人はほんとうにいいロックバンドだ。ライヴ初披露の曲も、10年前からある曲も、すべてが今のジェッジの音で鳴らされていく。

「Last entertainer say Right here, Right now」から連なるシーケンスには正直腹を立てる。なんで今までこれを聞かせない!という理不尽な怒りだけど。重たく体を揺らすビートが途切れることなく続く、ライヴ・ロング・ミックス。聞きなれた楽曲の境目に突如現れる、鮮やかな切り返しに耳を奪われる。「Dancetek」前の焦らし方なんて、まんまハウスDJじゃないか。そして幾度となく耳にした、あまりに印象的なリフとともに溢れかえる光。まわるミラーボール。跳ねまわるオーディエンスに耐えきれずしなう板張りのフロア。ああ、いつまでもこの曲が終わらなければいいのに!

はじけ飛んだ光はどんどん高みへ。沸点に達したフロアを冷ますように、柔らかな想いを込めた楽曲が続く。「オーパス・アンド・メイヴァース」のアルペジオはいつだってこころをひんやりとさせる。冴え冴えとした月の光のようなうつくしさ。藤戸氏が手にしたマイクに、からだ全体から振り絞るようにして声を乗せていく姿にも、ずいぶん慣れた。「百年の花」で、ぐっと大向こうを見据えて「見慣れた景色が 暁に溶ける」とうたう姿にぞくりとさせられる。

機材トラブルはジェッジの華、とは誰が言ったものか(誰も言ってない)。この日のトラブルは藤戸じゅにあ張本人。ライヴ初披露の「STAY」冒頭で歌詞を飛ばすとはなかなかやってくれるじゃないの。動揺のあまり口走ったとおぼしき「本当は泣きそうなんだぞ」という軽口に、心臓が握りつぶされたような気持ちになった。謝って止めようとしても全然演奏をやめない三人、グッジョブ!

「the Great Saling」は、ベースのフレーズに勇敢さを感じるのが好きだ。広大な海をかきわけて進む勇気と力強さ。思えば初めてジェッジの音を耳にした7年前にも、この曲は奏でられていたはず。冒頭のアレンジがガラリと変わっていても、ジュンのスネアが変則的な裏拍子を刻むので気がつく「HEADLINER OF THE YEAR」。終わりの時が近づいてきた予感を、振りはらうようにリズムに乗る。

それにしても「Tomorrow」のライヴ映え/化けっぷりはやっぱり素晴らしい。ポップでかわいらしささえ溢れる音源からは想像がつかない、ごりごりのロックチューンに姿を変える。この曲が、このメンバーで奏でられ磨かれていく姿を見られないのが、少し残念だ。そしてラストチューンは、やっぱり「CONTINUE?」だった。すべてを叩きつけるように音を奏でるステージ上の4人と、それに呼応しひとつのいきものになったようにうねるフロア。 ”ARE YOU CONTINUE?” という問いかけには、いつだって力強く「YES」って答えてるのに、上気した体と残響音を残して彼らはステージを降りていく。そして今日もまた。

the i of TODAY / 夜をこえて / 陽の当たる場所へ / for the Right time / 一心不乱のクラウディ // Last entertainer say Right here, Right now / Terminal Breakdown / 02mixedlouder / Fury / Dancetek // coma / オーパス・アンド・メイヴァース / 百年の花 / RIDHAM M // STAY / the Great Saling / HEADLINER OF THE YEAR / Tomorrow / CONTINUE?

終演後のステージに現れたハートマーク(らしくないこと、するよねえ)を見ながら考えたこと。ジェッジの名前が藤戸氏のソロプロジェクトになったところで、彼の生み出す音楽がスタジオでの孤独な作業だけで完結するものだとは思えない。誰かとともに立つステージでも、フロアと渾然一体になるブースに立つ時でも、彼がひとりで音を鳴らすことはきっとない。フロアからの悲鳴じみた ”ARE YOU CONTINUE?” と、ステージからの "We Are JETZEJOHNSON!" を片方ずつの耳で聴きながら、当たり前のことを再確認した。そう、"We" が指し示すものがちょっと広くなっただけ。長らく背負い続けてきた看板を下ろさないのは、そんな意思の現れだと信じたい。だから、これからもついていく。いいもの見せてよね? 頼むよ。