PaperBagLunchbox "Ground Disco" at 新宿MARZ

「とんでもない恋をしてしまった」

あるタイミングを境に、すべての風景が変わってしまうことがある。「今までの時間はいったいなんだったんだ?」と頭を抱えてしまうほどの、ほんの些細なきっかけで。それはきっと機が熟すのを待っていた結果なんだろう。待ってたことにさえ、気づかなくても。

イワホリの手になる深夜のラブレターみたいなエントリを読んで、彼らをそれと意識して初めて聴いたのが9:00。フリーDLキャンペーンに乗って "watching you" の音源が届いたのが12:00過ぎ。仕事中もずっと頭から離れないので新宿MARZに行くことにして、20:30には鼻先1mで彼らが歌ってた。ホリが彼らに再会した"LOST&FOUND"の曲を初めから全部と、ホリが彼らに出会うきっかけになった"オレンジ"までぜんぶ。22:30には既発のCD全部握りしめて「またライヴ来ます!」ってメンバー各氏にごあいさつした。なんだろうこのめくるめく展開。
CINRAの連載は、長くインディバンド界隈にいる身としてはあまりに正直で辛い。あらゆるバンドがこの手の葛藤に苦しみ、それでも音楽に焦がれ離れられずにいるのを知っているから。でも、それは決して「バンドの外」に向けて吐露されるべきものではなかったはずだ。それをあえて晒して見せる強さを得た彼らは、いったいどんな顔をして板の上に立つのだろう。それが見たかったというのも、ライヴに足を運んだ理由のひとつ。

ああ、とにかく、圧倒的な説得力を持つライヴだった。しっかりと腰の据わったリズム隊に、華やかでありトリッキーでもあるキーボード、そして体全体を鳴らして放たれる声の奔放さといったら。ナカノ氏、ステージ上では基本的に口角があがりっぱなし。あんた連載の中であんなに苦しんでたじゃねーかと言ってやりたいくらいに、跳ねて、踊って、煽って、ステージを自由に駆け回ってる。あんなに始終楽しそうな顔してうたう人はそうそういない。こっちもつられてほおがゆるむくらいの。研ぎ澄まされた言葉づかいが時々ざっくり胸に突き刺さったりしたけど、それも魅力のひとつ(ほとんど初めて聞く曲だったにも関わらず、ね)。

ラスト前のインタールードで、どこまでが準備された言葉かわからない、絞り出すような独白があった。ひとに優しくしたつもりが傷つけてしまう、無邪気に求めて傷ついてまた求めて、なんどもそれを繰り返してしまう。それでも、音楽だけがそれに応えてくれて、わがままを言える場所はここだけだった、と。…ああ、ホントどこまで正直者なのですか、あなたは。そして真っ白な轟音に「おやすみ」と繰り返す声が溶け、本編が終わる。なんて美しい。

思えば下北沢近辺を根城にして、もう10年活動しているバンドを知らなかったという事じたい不思議なのだ。彼らがスペシャルサンクスに挙げてるバンドはよく知ったものばかりだし、あまつさえ自分企画のイベントに出てもらったバンドさえいるのに!ずいぶん遠回りしたけれど、迷いの森を抜けた今のタイミングで出会えてよかった。「おかえり」なんて言えた義理はないけれど、どうかこれからをご一緒させてください。

イベントのオープニングを飾った、同名曲を。