津田大介+牧村憲一「未来型サバイバル音楽論」

何年に一回か、自分のこれまでを総括してくれるような本に出会うことがある。目から鱗が落ちるような斬新な知見というよりは、実際に自分が歩んできた道を振り返り、俯瞰した目線でとりまとめ論じたもの(前回そういう感覚を味わったのは「ウェブ進化論」だった)。ネットより少し早く、そして同じようにのめり込んできた「音楽」という形のないものが、まさに自分を引きずり込んだ当事者によって語られる日が来るとは思わなかった。そして、話の軸になるのが「ネット」だなんてな。うまくできてる。
わたしとほぼ同世代で、このブログを読んでくれるくらいには音楽が好きなひとなら、一枚や二枚「Executive Producer: Kenichi Makimura」と書かれたCDが棚に並んでるんじゃないだろうか。あるいは「海野祥年」とクレジットされた、情感たっぷりのライナーを目にした事があるひとも多いだろうと思う。そのご当人が「アンチ渋谷系としてのWITZ」とか発言してるのを真顔で読むなんてちょっと無理だ。そういう話に津田さんが「ちょっと似たコード進行や旋律で安易にパクったっていうなって事ですよね」とかコメントしてるの、もうたまんない。

もちろん昔話に終始しているわけではなくて、90年代までのレーベルのあり方と、音楽やネットをめぐる環境がガラリとかわった2010年に、敢えて「レーベル」という存在が意味を持ちはじめる理由もとても具体的に書かれている。著作権のあり方や音楽ビジネスに関する具体的な資料もまとまっているので、現状把握のためにも役に立つ。あれだけCDが売れていた90年代後半と比較して、ライヴの動員は1.8倍にもなってるとか(要は一発何万人のフェス集客なんだけど)。肌で感じてたことに数値的な裏付けがあると、なんだか嬉しい。

テクノロジーの変化と業界の変化を重ね合わせながらていねいに歴史をさらっていくと、冗談ではなくこの1年で大きく状況が変わってるのがよくわかる。「レーベルっていったいなんなわけ?」って話は、以前Exhivisionでクロストークのネタにした事もあるんだけど(003 How About "Indie Label" ? )、たった3年前の話がものすごくオールドスタイルな話に見えてくる。ネット配信はすでにあってそれに十分親しんでたはずの我々でも、発想の根幹が2010年の今と全然違うのよね。面白い。

この本にある「ニューミドルマン」って立ち位置が、ずっと自分が行きたいと思ってる場所なのかもしれない。クリエイターそのものではなく、ギョーカイにどっぷり浸かるのでもなく、純粋にリスナーとしているのでもなく。というか、ある意味この10年ずっとそうだったか。現在のTwitterとかUstを使った流れがさらに加速するとしたら、なんかもっと自分ができることがあるのかもしれない。12年前、大学の志望理由書に「ネット配信のインディレーベルやりたい」と大口叩いたオレ、もっとがんばれ。