クルマはかくして作られる

先日@sohsaiにおすすめいただいた本があまりにも面白くて、一気に読み倒してしまったのでご紹介。「好きだと思うよー」という見立て、大正解。ありがたい。

タイトルの通り、CarGraphicsというクルマ専門誌に連載されていたものをまとめたものなんだけど、とくにクルマ好きのためだけの本ではない。そもそもわたし免許持ってないし。一般的にイメージされる自動車組立工場の姿を「フランベして皿に盛りつけるだけ」といい、そこに至るまでのかずかずのサプライヤーをつぶさに取材して、熱っぽい口調で記事にしたもの。

超高級車センチュリーの塗装に対するこだわり、ヤマハが作る(!)メープルウッドのパネル、日本一のシェアを誇る皮革の加工工場、そこからシートを組む工場、革張りのステアリングを内職で仕上げるおばちゃん、電気系統のケーブル、フロントパネルの成形、その金型にシボ(革っぽいざらざら、ね)を掘り込むための工場(!)、取材対象は多岐に渡る。

例えば「皮(skin)をなめしたものを革(leather)で、化学的に鞣したあとの毛側(銀)+体側(床)がつややかな革で、厚みの真ん中で はいだ内側がスエード。成牛で繊維が長いのがベロア。銀面に傷が多くてしかたなくサンドかけたのがヌバック」みたいな話が随所に出てくる。たまんない。

コラム的なセクションも面白い。「2mmの穴に2mmのピンを差す」ためには穴とピンそれぞれ±0.01mmまでの公差しか許されない(±0.02だと、最大で0.07mmもずれるのでガッタガタになる)、そのためには工作機にどれくらいの精度を求める必要があって…みたいな話。くらくらする。

最後には製鉄所まで行ってしまうのだけど、鋼を削り出す時に片側だけ一気に削ると内側に反るとか、日産何万個ってラインは朝夕で機械の摩耗によって精度に差が出るとか、普段まったく考えもしないレベルの工夫と努力の累積で世の中が組み上がってるのに気づいてぞくりとした。この感覚、「ベイブリッジはケーブルで引っ張るしくみの橋だから、有事には跳ね上がらないように下に引っ張る工事をした」ってのを知った時と似てる。あらゆる技術って、ひとがモノに対抗するための武器なんだな。続刊もぽちりとしたので、届くのが楽しみ。