自分をいかして生きる / 西村 佳哲

この世界は「自分がやりたいこと」をやる場でも、「社会から求められること」に応える場でもない。そのどちらか片方じゃない。仕事は、自分の課題と社会の課題が重なるところにある。

前著「自分の仕事をつくる」から6年、西村さんの新しい本がでてました。4月からの生活に期待と不安を寄せる大学生だったわたくしも、ひとところに6年勤めて笑ったり泣いたり辞めてやるー!って叫んだり課せられた荷物の重さにぐらぐらしたり踏ん張ったりしてある程度いっちょまえになりました。なったはず。

で、とりあえず働くことが日常的になったところで「じゃあ、あなたはどんな風に生きてくの?」と問いかけてくるのがこの本。前著みたいにさまざまな分野ではたらく人のインタビューが収録されているわけではなくて、ひとつのテーマを夜に部屋でじっと考え続けているような本(いくつかのインタビューもあるし、かの心に残るジョブズのスピーチが取り上げられてたりもしますが)。アクティブな前著と二冊合わせて昼と夜みたいなイメージ。やっと一日が完成した、とも言えるかも。

全編を通してたいへん優しい筆致で(西村さんが目の前でしゃべるのと同じ雰囲気がする)うなずいたり首を傾げたりしながら、さらさらと読んでしまいました。たぶん、ことあるごとに手に取ってぱらぱら読むような付き合いになりそうです。

気に入ったところをいくつか抜き書きしておきます。できることなら前著を手に取ったあとに読むことをおすすめしたい。彼がこんな風に語り始めるきっかけとなる人がたくさん出てくるので。クリエイティブな職種の人が多いけれど、決して特別な環境なのではないと思う。違うのは自覚と決意。

あ、あと、SONYプロフィール・プロ(今でも新宿LOFTのモニタはこいつ)と、通販生活紙管スピーカーを作った人が同じだってことに声が上がるほど驚いた。そして彼がいま蕎麦屋をやってる、ってことも。

何が流行っているとかも受かるとか、このように生きるべきといった外側の指標でなく、自分の中の葛藤。「ザワザワする」ところ。「お客さんでは済まない」部分。「好き」よりさらに前の感覚的なもの。

人がより「生きている」ようになるのを助けるのが「いい仕事」なんじゃないか。その眼差しで世界を眺めると、仕事という言葉をめぐる風景が変わり始める。

自分をいかして生きる

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