028/100 祝祭と暴力―スティールパンとカーニヴァルの文化政治

祝祭と暴力―スティールパンとカーニヴァルの文化政治

祝祭と暴力―スティールパンとカーニヴァルの文化政治

スティールパンは不思議な楽器です。少しでも強く叩くと本来の姿、鉄の荒々しい音が戻ってきます。バンドの誰かが、がつんと響かせたその音だけで、何回か素晴らしいソロや気持ちよく決まったブレイクを捨ててすべてをやり直さなければなりませんでした。そんな時です。この不器用な楽器はただの鉄からできているのだと思い知らされるのは。そして弾丸も爆弾も、たいていの武器も同じ鉄からつくられたのだということをおもいだすのです。
ただひたすらに破壊するための鉄、、、
だから私たちは、スイートな音を作ろうとして、この楽器を限りなくやさしく叩くパンの戦士たちの勇気に拍手を送りたいのです。

YOICHI Watanabe "スティールパンは世界でいちばんあたらしい楽器"

夏も半ばを過ぎた頃にふとこんな話を訊いて、それ以来スティールパンとその周辺のあれこれに頭を埋め尽される。Little tempoとかpanorama steel orchastraを聴きながら「これ、課題図書」と言われて読了。ひさびさに音楽を窓口にして違う世界をかいま見た気がする。
トリニダード・トバゴで生まれた「世界でいちばんあたらしい楽器」であるスティールパンと、当地で古くから行われているカーニヴァルを中心に、その周辺にある文化や政治、民族の自意識などをまとめた民族学の論考集。発表された媒体の差によって視点がまちまちで、各章ごとに重複する部分も多いのだけど、この分野に関してほとんど真っ白な身としては非常に面白い。カリブ海周辺について「南国?」くらいのイメージしかなかったので、序章の数ページだけで背筋がぞくぞくした。

この本の章立てをみると、3章と5章が少し異質なものに見えるかもしれない。確かにこの2つの章は論考やレポートではなくて、著者自身の個人的な体験を書いたもので、直接スティールパントリニダードのことに触れているわけではない。だけれど、あるひとつの民族文化を語ろうとするときに、アメリカという国と、それを構成するほんとうに多数のナショナリティを持つ人々の生活と、そこに潜む差別とか暴力の問題を見ないふりで語る訳にはいかないのだな、とも思った。ま、こんなひとくちで語れるものでもないのだけれど。

日本の教育現場においては自分でパンを作る→奏でるという活動が盛んらしい、という記述に目を光らせる(そこに祝祭とかの意味付けは全くないのだけど)。それ、やりたいなあ!手づから作った、世界でいちばんあたらしい楽器で音楽を奏でるなんて最高じゃない?虎視眈々とチャンスを狙いたい。

んー、Little tempoが見たい。去年、UNITで初めて見たときの音がいまでも思い出せるもんなあ。