入試の心得

予定の時間になると、まず学部長が挨拶にたった。僕はこんなことにまで儀礼的な挨拶が必要なのだろうかと訝った。しかし挨拶は、次の様なものであった。
「皆さん、朝早くからたいへんご苦労様です。今日は、私達と一緒に、これから4年間あるいはそれ以上一緒に勉強する仲間を選ぶ大切な日です。ひとりでも優秀な学生が来るように皆さんも緊張感を持って臨んでください」
僕は、自分が少し恥ずかしくなった。入試とは、自分たちのいる大学への入学を許可するためだけのものではなく、これから一緒にやっていく人間を選び出すことなのだ。

佐藤雅彦 / 毎日新聞 2000/3 号「入試の心得」より。

入試の日は、この言葉を自分に言い聞かせるようにしている。この挨拶をしたのはきっと熊坂さんだろうな。 自分たちもこういうポリシーで選ばれたのだ、と思うとすこし誇らしい気持ちにもなる。

だからこの4日間は、「預かりもののお嬢さん」でも「何も知らないちびっこ」でも「厄介な最近のコドモ」でもなく6年間を一緒に過ごす仲間を探す期間として仕事をする。受験生の顔を見る事はほとんどなく、本部に詰めて数字だけを相手にする仕事だからこそ、この言葉を忘れないようにしたい。 今年もたくさん広報の仕事で外に出て、誘うだけ誘ってふるいにかけるような因果な商売だけど、気の合う子が1人でも多くやってきてくれればいいな。

ミスがあったら自分のクビひとつで済むようなことじゃない部署なので、イヤんなるくらい慎重に。手を抜くな気を抜くな。