生きる技術は名作に学べ / 伊藤 聡

ひそかに愛読している「空中キャンプ」の伊藤氏が初の著作を現したとのことで、いそいそとAmazonで予約。のつもりが知らないうちに二回予約していたらしく、机の上にはAmazonの箱がふたつ。氏が「全人類に献本したい」とかおっしゃっていたからか(違う)。

いわゆる「古典」と言われている名作文学から10篇をえらんで、あらすじと読み解き方、そしてそこから見えてくる「生きる技術」を書いた作品。かなり内容に踏み込んでいるものの、いわゆる「あらすじ」本みたいな粗っぽさはなくて、むしろ書かれている物語にぐっと興味が湧いてくるすてきな構成でした。

掲載されている10篇の中で、まともに読んだことがあるのは「ハックルベリー・フィンの冒険」だけ。いや、これも小学生の頃だから、ジュブナイル版で読んだ気になってるだけかもしれない。確かにこの手の作品って、若い頃に読んでおかないと「最終列車を逃した」ことになるのかもな。

ちょっとずつ読むつもりが、面白さに引き込まれて猛烈な勢いで読んでしまった。とにかく底本の10編に対する目線のていねいさと、それが氷山の一角にすぎないと思わせる豊富な読書/映画経験が垣間見えて心地よい本でした。とくに気にいったのは「ハックルベリィ・フィンの冒険」と「車輪の下」と「アンネの日記」。あ、みんな少年少女ものだ。あと「1984」は読まなくちゃいけないと再び思う。「1Q84」の続編が出るまでに読もう。

当たり前なんだけど「空中キャンプ」のあの文体が本になっていることにつよく感動した。あのちょっと独特な漢字のひらきかたをするテキストが手の中にある。後半は意図的に(かな?)固い文体になっているので、ぱっと見開くと頁の濃淡がまるで違うのが印象的。例えばp30とp225を比べてみると全然違うよ。

あと個人的には、『赤と黒』で著者がいかに東京での暮らしを渇望したか、そして上京した4月がいかに気恥ずかしくもすてきな4月だったか、と熱弁するくだり、同じ福島県出身として身に覚えがありすぎて震えた。あの土地のいろんな中途半端さが、都会への思いに身を焦がさせるのだ。うつくしまふくしま。

余勢を駆って月末のトークイベントにもゆくつもり。たのしみです。

生きる技術は名作に学べ (ソフトバンク新書)

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