ご近所物語

熱に浮かされているなかで、誰かが呼ぶ声がした。どうやらお隣さんに来客のよう。お隣はひとりぐらしのおじさん。

「おい、だいじょうぶか?ちょっと顔見せてくれよ」ひたすら繰り返すおじさんの声。強くドアをノックする音。仕事サボったりしたのか、いや、お隣は勤め人じゃなかったはず。

「ええ?玄関まで来れねえのかあ?ちょっと待ってろ」どうやら大家さんに鍵を借りにいったよう。なにやらおおごとのようす。静かになったので、心配しつつもうっかりまた夢の中へ。

「おおい、鍵、自分で変えたのかい?だいじょうぶかよう?」大家さんの手元にある鍵、どれもあわなかったよう。なんにんかの話し合う声、そしてほどなく救急車と消防車の音。いつもはドップラー効果で遠ざかっていくサイレンが近くでふっと止まるとどきどきする。

救急隊員の呼び声になにやら答えているようす。消防のひとがあっという間に玄関を開けて救急車へ。「こんなに具合悪くなる前に連絡しろよなあ」とおじさんの声。そしてまたサイレンの音。

なんとか無事で良かったと思う反面、なんだか切ない気持ちになる。まあ、自分も救急車来ても出て行かなかったくらいにぶっ倒れていたわけですが、うすい壁の向こうで何時間、あるいは何日も苦しんでいたと思うとやるせない。

最後に姿見たのいつだっけな、と考えても思い出せない。週末からずっとふとんカバー干しっぱなしだよなあとは思ってたけど。ま、自分もお隣さんに助けを求める事はないだろうなあと思いつつ。都市部賃貸ぐらしなんてこういうものなのかしらね。ううむ。