いのちの食べかた at 渋谷イメージフォーラム


あらゆる食べ物が「生産」されるようすを、淡々と描写したドキュメンタリー。たとえばクリスマスに多くの人が食べたであろうフライドチキンは、たまごをひよこに孵して育てて「収穫」して、製品としてバラされて出荷、キッチンで料理される。魚も、牛も、豚も、野菜も果物もそう。当たり前すぎて、というか、考えることを放棄している部分をていねいに描いた作品。

ナレーションもインタビューもテロップも、音楽さえ流れない。ひとつひとつのシーンが冗長ともとれるくらい長くて、でもそれは今目にしたものを咀嚼するために必要な時間。現実を告発するのではなく、なんらかの意図を伝える目的で編集されているわけでもなく、ありのままの素材をポンと手渡されるので、どう扱っていいか困る。

そう、「困る」のが大事なんだろうな。「家畜の命を工業製品のように扱うなんて!」「こんな農薬まみれのものを食べてるなんて!」と憤るのもいいのだけど、今日の朝ごはんも昼ごはんも、そのようにしてできている。とはいえ、ショッキングな映像であることには変わりがないわけで。うん、ホント、取り扱いに困る感情です。答えは、まだない。

この映画、原題を"Our Dairy Bread"=日々の糧、というのだけど、これを「いのちの食べ方」と翻案したのはいいセンスだなあ、としみじみ思う。下敷きには いのちの食べ方 / 森達也 があったのだろうけど、「いただきます」という日本語の持つ背景と、食事の前に神に感謝の祈りを捧げる欧米圏の感覚の違いをうまく表してるなあ、と。

あまり心地よいものではないけれど(クリスマスに観るもんじゃなかったかも)食の問題、いまの生活のバックグラウンドに興味がある人は観ておいた方がいい。渋谷イメージフォーラムでは1月下旬まで、その他全国で上映館が増えているようです。

いのちの食べかたhttp://www.espace-sarou.co.jp/inochi/