001/100 プラネタリウムのふたご

プラネタリウムのふたご (講談社文庫)

プラネタリウムのふたご (講談社文庫)

「ほんものを見る、ってのもな、むろん大切なことだよ」
泣き男はつづけた。
「でも、それ以上に大切なのは、それがほんものの星かどうかより、たった今誰かが自分のとなりにいて、自分とおなじものを見て喜んでいると、こころから信じられることだ。そんな相手が、この世にいてくれるってことだよ」

テンペルとタットル、稀代の手品師と郵便配達人兼星の語り部。たっぷりとページを使って語られるふたりの人生のおはなし。文庫本の厚みはちょっとした姑獲鳥の夏くらいある。

たしかに長い物語だけど、ひとつひとつの場面がとてもくっきりと描かれているので、飽きる間もなく物語に引き込まれる。ここはプラネタリウム、ここは街の酒場、ここは北の森、ここは都会の大劇場。書割りを取り替えるようにくるくると絵が浮かぶのです。やさしい育ての父、町外れに住む老婆、どこか憎めない村の外から来た工場長…。登場する人びとも、とてもシンプル。

童話やファンタジーって、子どもの頃は物語の世界そのものに心を躍らせるのだけど、大人になると、そこから今いる世界へのメッセージをくみとるようになる。老婆がタットルを叱り飛ばす言葉、座長がテンペルに言って聞かせる手品の心得、タットルが栓ぬき(というあだ名の少年)に告げる別れと再会の約束…。どれも少しだけ、明日からの暮らしを変えてくれるように思うのです。

GO TO THE FUTURE余談だけど、この本には サカナクション / GO TO FUTUREがよく似合います。もしもワタクシが映像化するとしたら、間違いなく「夜の東側」をメインテーマに据えることでしょう。北の森にのぼるタットルが見えるの。