スティル・ライフ

スティル・ライフ (中公文庫)

スティル・ライフ (中公文庫)

ひとに貸したままどこかに消えてしまったのでブッコフで買い直し。まあ、こういう本は何度買ってもいい。ほんの80ページばかりの掌編だけど、読み返すたびにあたらしい景色が見えたり、含蓄のある示唆があったりする。
 大事なのは、山脈や、人や、染色工場や、セミ時雨からなる外の世界と、きみの中にある広い世界との間に連絡をつけること、一歩の距離をおいて並び立つ二つの世界の呼応と調和をはかることだ。
 たとえば、星を見るとかして。

 二つの世界の呼応と調和がうまくいっていると、毎日を過ごすのはずっと楽になる。心の力をよけいなことに使う必要がなくなる。
 水の味がわかり、人を怒らせることが少なくなる。
 星を正しく見るのはむずかしいが、上手になればそれだけの効果があがるだろう。
 星ではなく、せせらぎや、セミ時雨でもいいのだけれども。

これまで読んだあらゆるテキストの中で、一番うつくしいモノローグ(次点は「広くて素敵な宇宙じゃないか」のカシオ。「見上げた空があまりにも青くて息が詰まることがある」から始まる長台詞)。最近ちょっと外の世界にばかり振り回されている気がするので、失礼を承知で抜き書き。外の世界に寄りかからないように、押しつぶされないように。